技術記事
ディスクリートの電源ではなく電源モジュールが選ばれる理由とは
信頼性、スケーラビリティ、サイズと重量、電源設計に求められる専門知識などの要素を分析することで、2つの設計手法の違いを明確にし、モジュールで構成する電源システム設計の利点を明らかにします。
電力供給ネットワーク(PDN)を設計する場合、電源モジュールとディスクリート部品のどちらを使うかを決定するためには、設計の変動要素を丁寧に検討する必要があります。ディスクリート部品を用いて自社で開発するソリューションに対して、モジュールを使う構成、特に電力密度の高いVicorのモジュールを使うソリューションの強みを知ることは、極めて重要です。信頼性、スケーラビリティ、サイズと重量、電源設計に求められる専門知識などの要素を分析することで、2つの設計手法の違いを明確にし、モジュールで構成する電源システム設計の利点を明らかにします。
電力供給ネットワークの開発はシンプルな方が良い
電源モジュールを使う場合は、設計に必要なコンポーネントが少ないため、故障する個所が少なくなります。ディスクリート部品による設計と比較して、接続点も少なく、組み立て時に発生しやすい品質不良が減少します。さらに、組み立て工程が少ないため、回路基板を作業者が取り扱う必要が減り、製造工程内で静電気放電(ESD)によって損傷するリスクが下がります。これらの特長により信頼性が向上し、電源システムを設計する際の電源モジュールの価値が上がります。
手間をかけずに仕様変更に対応
Vicorの電源モジュールは小型で高電力密度です(図1)。多くの場合、電源システムを配置するスペースはとても限られているため、小型の電源モジュールを使えば自由度が増します。このモジュールを使うことで、コストと時間のかかる再設計をせずに、要求仕様の変更や電力増大に対応できます。一度認証を済ませたモジュールを流用することで、全面的な再設計をする際の、追加テストや再認証、部品調達の手間を省くことができます。このように、フレキシブルでスケーラブルな電源モジュールを使うことで、設計変更を素早く効率的に実施することができ、開発サイクルの短縮とコスト削減が実現します。最終的に市場投入までの時間短縮につながります。
図1: Vicorの電源モジュールは、小型で電力密度が高く、入力電圧・出力電圧のバリエーションが豊富です。小さな面積に多数の部品が高密度に集積されており、絶縁、電圧安定化、電力変換、変圧の機能がさまざまに組み合わされています。
製品ライフサイクルのジレンマを解消
電源モジュールを使う設計とディスクリート部品による設計を比較検討する場合、設計する製品のライフサイクル全体を考慮することが極めて重要です。ディスクリート部品を使って設計する場合、設計、テスト、検証などの作業はすべて社内の電源設計チームが行うことになります。さらに、第三者機関の認証取得や、複雑な製造・調達プロセスの管理は、重大なリスクになり遅延につながります。出力を増やすなどの仕様変更が生じれば、全面的な再設計が必要になり、開発期間はさらに延びる恐れがでてきます。
これに対し、電源モジュールを使う場合は、サプライチェーンの物流はシンプルで、組織のストレスは軽減されます。Vicorのモジュールのように、規格認証を取得しているモジュールは、十分なテストと品質管理がなされており、信頼性と規格準拠が保証されています。さらに必要な電力が増加したときは、同じモジュールをいくつか使うことでスムーズに出力の拡張ができ、大規模な再設計は必要ありません。
電源モジュールを使うことで、専門的な知識をあまり必要としないシンプルな手法による、電源システムの設計が可能になります。実装面積が小さく電力密度が高いモジュールを使うことで物理的に占有面積が減り、PCB上に他のコンポーネントを置くスペースができます(図2)。また、高効率のモジュールを使うことで、複雑な冷却方法を使う必要がなくなり、放熱設計もシンプルにできます。このようにシンプルにできるので、何度も設計したりアップデートしたり、システム全体のメンテナンスをすることが速く簡単にできます。
図2:モジュールを使うシンプルな手法はフレキシブルで拡張が簡単にでき、電力供給ネットワークを最適化するための専門知識は少しで済みます。
一方、ディスクリート部品で構成するソリューションでは、設計プロセス全体を通じて広範な専門知識と時間と労力が必要であり、状況は複雑になります。このソリューションの場合、たくさんのコンポーネントを調達し、検証し、組み合わせる必要があります(図3)。些細な設計変更でも、人手による丁寧な対応が必要であり、プロジェクトスケジュールの混乱や、思わぬリスクにつながる場合があります。
図3:ディスクリート部品によるソリューションでは、管理するコンポーネントが増え、設計が複雑になります。
ディスクリート部品で設計する場合は、負荷を追加したり、電力や電圧レベルを調整したりする際に、フレキシブルに対応ができないというデメリットもあります(図4)。電圧を増やして配線すると貴重なスペースを占有し、ボックスとケーブルは大きくなり、システムの重量が増えます。さらに、このディスクリートのソリューションは外部からのノイズの影響を受けやすく、全体の性能と信頼性に悪影響が生じます。
図4:「シルバーボックス」は、プラグ・アンド・プレイのソリューションとしては優れていますが、重くかさばり、フレキシブルではありません。
結論として、電源システム設計の選択肢を評価すると、電源モジュールには、ディスクリート電源ソリューションと比較して、いくつかの大きな利点があることがわかります。トポロジが優れており小型で放熱性に優れたパッケージのVicorの電源モジュールを使えば、比較対象であるディスクリート電源や「シルバーボックス」より、高電力密度、高効率、高信頼性が実現できます。
電源モジュールを使用することで、設計の工程がシンプルになり、コンポーネントの数や技術的な設計ミスの可能性が減り、新製品を市場投入するまでの時間を短縮することができます。さらに、モジュールで構成する手法はフレキシブルで簡単に拡張ができるため、電源要件が変更されても時間のかかる再設計は不要です。
規格認証でモジュールが保証されており、サプライチェーンの物流はシンプルになり、モジュールを簡単に再利用してPDNを素早く拡張できることにより、電源システムの設計者はイノベーションと最適化に集中することができます。複雑な自社開発の、ディスクリート部品によるソリューションに煩わされることはありません。Vicorの高電力密度のモジュールを選択することで、高効率、高信頼性のスケーラブルな電力供給ネットワークが実現し、貴重な時間とリソースが節約でき、より速い市場投入が可能になります。
本記事は マウザー・エレクトロニクス に掲載されたものです。